続・冷たい方程式

冷たい方程式と言えば医療関係の問題の多くについて、医療を受ける側は「そんな冷たい!」と感じるのだろうなと思います。

それを受け入れられるかどうか。

何と言うか東洋的思考と西洋的思考の違いというのをテレビでチラ見しましたが、日本的しっとりした情緒は合理的な思考と相容れない部分がある気がします。


日本がワクチン後進国であるわけ。

そのワクチンでこどもの死亡を1000人減らせるとして、副作用では一人亡くなるとしたら。

その病気で亡くなる子を1000人減らせればそっちのほうがいいってなるかというとそうでも無いんですよね。

副作用でこどもを亡くした親の嘆きは深い...

ワクチンしてなくてもその病気にはかからなかったかもしれない、いや、もしかかってても死ななかったかもしれない...

たぶん考えてもどうしようも無いことをどこまでもどこまでも考えることでしょう。


病気で亡くなるのはある程度は運命で,ワクチンの副作用だと犯人が出現するわけです。

で、責任をとわれるほうは萎縮。

そしてそのワクチンは任意接種になると。

さあ出ました自己責任。

ワクチンの危険性を認識した上で子供に使うかどうかは親が判断しましょう。

国は知らん。


となると、かなりの親は考えてうつかどうか決めるんじゃなくて,何も考えずにうたない。

だって~通知来てないし~、え~~任意??神経質な人が自費で受けるもんなんじゃない?みたいな。


そのためにその病気で亡くなったり、後遺症を残したりする子が増えてもそれはそれ。

統計の数字を見なければそれでいい?



その他の薬でもそうですよね。

副作用が出たらけしからんと大騒ぎ。

作用と副作用を秤にかけて使用を決めるんじゃなくて、心情的に副作用けしからん、その薬は禁止!!とか反応しちゃう。




疫学的な検討は重要です。

でも個々の症例とそれに関わる人の心情はまた別物。




この手術の成功率は95%ですと言われて手術を受けてうまくいかなかったとします。

人によっては95%の成功率だと聞いたのでうまくいくと思って受けたのにけしからん,訴えてやるという反応をしたとします。

で、病院側から考えると、年間100例その手術をしているとして95人は成功,5人はうまくいってないわけです。

その5人全員が賠償請求すれば病院は潰れます。



その手術を受けると95%治るわけではありません。

受ける個人にとっては成功するかしないかなわけです。

それを理解した上で判断しているか?



説明する側と受ける側の理解の違い。

当然って思っちゃいけないわけで。

相手が判ってるはずと思って説明が足りなかったり、ちゃんと説明うけたのに都合のいいように解釈したり。

すっごく難しいのだろうと思います。

しかもそこに手間隙かけるゆとりが足りない。




帝王切開の経験者の自然分娩の問題なんかも似たような感じがします。

http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20090826ddlk07040133000c.html

絶対に安全に行えと言われれば、それは不可能だからやめるとしか言いようがない。

でもまあこれについてはやらないというので良い気がします。

そもそもVBACは医療費を節約するという目的があるような。

それより安全なお産のほうが大切ですから、帝王切開が第一選択になったほうが私はいいと思ってます。

あとは自然出産に対する信仰を無くせば済むかな。( ついでに言っとくと個人的には母乳信仰にも悩まされましたが...


本当はVBACで不幸なことになったかたには安全なVBACを行えるように要求とかじゃなく、これからVBACを望む人たちに、いいことばかりじゃない、これだけ危険が増えるけどそこも考えて選択しましょうと呼びかけてもらえると産科医は助かるんでしょうけどね。(子供を亡くしてそんな理性的ではいられないでしょうけど.....




癌治療なんかもそう。

evidenceより心情的なほうに流されちゃう場合が。

ガンだって稀には病変が自然に縮小したり消失したりということがあります。

そういう例をもって、今の癌治療は副作用が大きい、害である、免疫力だけで治すんだと言うのは、確かNATROM先生のとこでお見かけした比喩だったと思うのですが、ビルから落ちて無傷だった人がいるからと言う理由でビルから飛び降りろって言うようなものだと。

それでも治った人の生の体験談は説得力があります。

誰にでも当てはまると言うわけじゃないという当たり前のことには気がつきません。



さらにそういう習性を悪用するやつも。

インチキ商売の定番「私はこれで~が治った!!」みたいなの。

どれほどの母集団に使用したのか、ちゃんとした対照群と比べたのか、対照群とは有意差があったのかというたぶん医療側は当たり前に考えに入れるだろうことをすべてぶっとばして「でも~さんはこれで治ったの。私は信じる!」




医療の現場はリスクとベネフィットを常に秤にかけて考える。

個々の事象ではなく統計含め疫学的に考える。

しかもそれを個々の患者さんに当てはめて検討しなきゃいけないという応用問題。

その上,純粋に治療としては成功の部類にはいった場合でも、被医療者の満足度と一致するとは限らない。

あまりにも難しい.....




どうすればいいんでしょうね。

ワクチンだったら国が薦めて補助も出して、さらに副作用の場合はがっつり補償する?

手術なんかは飛行機に乗るときみたいな掛け捨て保険って考えも面白いけどすごく高くなりそうだから、それぞれの手術に難易度にあわせて補償分の金額上乗せがいいかな。

うまくいった人を含む手術代金にうまくいかなかった人分の補償金額を乗っけとく?

産科も無過失補償をもっと広げてその分をお産の代金に乗せる?



自分の受ける医療にうまくいかなかった場合の救済費用がこんだけ乗ってますよってことになれば、医療を受けるときの覚悟もついでに出来るかな?




.....とか思いついたけど反対って意見が来そうだな。